連続・真空前処理型・バルブボディバリ取り・鋳物砂除去装置
真空[前処理型]超音波洗浄技術の真実 開発された意図を正しく理解して、どうすれば、最もよく目的の性能を発揮できるか ~開発者としては~ 客寄せ用語の[真空]でなく、正しく利用されることを求め ていきたい。
はじめに
我社の自慢の超音波洗浄装置と問われて、すぐ思い付くのは、最近、電子部品、液晶関係、半導体業界で注目を集め始めている当社の超音波発振器、振動子、SIRIUSシリーズの基本周波50KHz、80KHzタイプの広域同時多重波発信器である。長年、この業界で育ってきた私も このシリーズの50KHz,800KHzタイプの発振状態(ほぼ振動面全域にわたって、20センチ以上吹き上がる。)を見ると心底、感動を覚える。超音波の奥深さとこれからやってくる超音波の新時代(私は第4世代と言っているが)をその強力さ、緻密さを見るたびに、実感している。ゆっくり、しかし確実に超強力50KHz、80KHzの応用時代がやってくるだろう。超音波技術者なら、発振状況を見ればその意味することがわかるはずである。
しかし、ここでは、装置ということであるから、今急速に普及していきつつある連続・真空[減圧]超音波洗浄装置の中から、バルブボディーのバリ取りと、アルミダイキャストの鋳砂除去装置に絞って説明をしたい。
洗浄対象物を一度真空中に置き、洗浄物の隙間や表面の空気を除去して、超音波洗浄の効果をあげることを今から10数年前、岡谷の工業試験場で発表(もともとはCFC-113対策でプリント基板の密着部の洗浄技術として提案)した。もちろん特許出願。が、その後、真空超音波洗浄というキャッチフレーズで、一部で、類似システムが発売され、内容が、本来の趣旨とかなり異なるので、誤解を除くために真空のあとに括弧して減圧とつけている。そのシステムの最新事情を報告したい。
[写真は、50KHz 2400W2W/cm2の水・発振状況]
連続・真空[前処理]超音波洗浄システムの原理
1.一般真空[前処理]超音波洗浄の意義
形状が複雑で、液中につけても、容易に空気が抜けない場合、真空引きをしてから 洗浄液に浸漬する必要がある。洗浄物の止まり穴、あるいは焼結金属などの表面層の空気幕、泡が、その周辺の超音波によって発生する。キャビティーの形状に大きな影響を与えるだけでなく、超音波自身を効率的に反射したり音圧の変化を吸収して、キャビティーの発生、又はその正負の衝撃波を吸収緩和する。すなわち洗浄効果を減殺する。従って、形状が複雑な精密洗浄の大半が 本来この洗浄システムの範疇になる。
ただし、この場合でも超音波洗浄に変わりないのであるから、円形の洗浄槽では、キャビティーションコントロールが、不可能に近い。キャビティーションコントロールが、可能な洗浄槽の形と液の流れ、液深の適正化は当然の基本設計条件である。
ここでは、キャビティーションコントロール、及び槽設計の基本的条件については、本題ではないので省かせていただく。もちろん導入される液は、大気に触れていても目的の溶解空気量に、安定して維持されていなくてはならない。減圧(真空)しながらの超音波洗浄は限られた場合に行う。超音波発振時には大気圧に戻し、溶解気体(空気)の量を安定させ、超音波洗浄をしなければならない。そうでないとキャビティーの洗浄力が著しく減少する。
それらを正しく行うことで空気の影響を排除して、超音波洗浄を行うことが出来る。
ただし、それでも次のような欠点がある。
2.一般真空[前処理]超音波洗浄の欠点
当たり前であるが、真空[減圧]超音波洗浄は、①洗浄物を置く ②蓋をする③真空引きをする④脱気液を導入する⑤液深さをあわせる⑥大気圧に戻す⑦超音波洗浄、循環ろ過、連続脱気をする、蓋を開ける。⑧超音波の制御をする⑨洗浄終了後、排液する⑩洗浄物を次の槽に移動する・・・。が主な基本的サイクルでる。
つまり、一般の多槽式バッチ洗浄装置に対して、②③④⑤⑥と⑦の一部⑨の工程が多い。
工程が多いため時間がかかり、今日の高速連続洗浄に向かないように見える。さらに基本的なことだが、洗浄物を次槽に移すときに大気中に出してしまう。コストを無視できるならともかく、真空乾燥なら理解できるが、真空[減圧]洗浄を2回以上繰り返すのは、受け入れがたい。洗浄に劣らずリンスは大切な工程で時には 洗浄工程よりも強力な超音波洗浄力を必要とする。たとえば工作油で汚れたバリ取り洗浄などである。この場合は、脱脂洗浄は比較的弱く、バリ取り(リンス)洗浄で、強力超音波を必要とする。
つまり真空[減圧]超音波洗浄は、そのすばらしい特徴を生かそうとすると、現代の高速に着いていけない欠点を併せ持つのである。
そこで、筆者は、2003年11月、大手自動車部品メーカーの生産技術部隊の協力の下真空[減圧]の特徴を生かしたまま、高速処理を行う連続真空[前処理]超音波洗浄、バリ取り装置の開発に着手した。
その概要について次に示す。
3.連続・真空[減圧]超音波洗浄装置の開発の成功とその原理
開発の対象ワークは バルブボディー等に代表されるアルミの精密加工品で 洗浄、及びバリ取りである。カセットの大きさは長さ約750mm、幅200mm高さ200mmとし、重さは約20kg。1カセットの処理タイムは、70秒に設定。工程はおおよそ次のとおりである。
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真空[減圧]処理
高さ750mmの位置にコンベアで送られてきたカセットを 真空[減圧]処理槽に取り込む。処理槽の側面に開閉シャッターがあり、定位置にカセットがくると側面の真空シャッターが開き、カセットを槽内に取り込み、取り込むと直ちに真空シャッターが閉じて、真空引きを開始、所定の真空度にする。目的の真空度に達した時点で脱気液を導入開始、液深が、次槽の液深と同一になったところで 導入停止し、大気圧戻す。これを約、50秒で行う。次にこの槽と次槽の境目の真空シャッターが開き、その間を通して、カセットを次槽に導入する。
この処理槽を 真空[前処理]処理槽と呼ぶ。 -
超音波洗浄槽(超音波バリ取り槽)
この槽は、カセットの移動方向に対して平行に槽の両側面に超音波振動子を配置してある。カセット、及び、対象精密加工部品は、空気に触れることなく、洗浄液(水など)中を移動して前の真空処理槽から、この超音波槽に来る。超音波槽に導入されると 真空槽との間のシャッターは直ちに 閉められる。両側面に配置された超音波振動子は、一般的には25KHzを基本周波とし、535KHzまでの多周波が 相乗される広域同時多重波である。
基本周波で、同期回路、位相を合わせて、両側面より同時発振、共振を起こさせ、超音波の音圧をあげて、キャビティーの形状、大きさ、数をより多くする。音圧は対象ワークと周波数にもよるが、15〜65Vの間で設定する。この超音波の音圧は 液体の温度、溶存酸素量、周波数の微調整などにより変わるので、当社の超音波洗浄力計[U-sonic Tester]で、監視モニターされる。
当然、洗浄、バリ取り、いずれでも効果的な循環ろ過は 必需である。超音波を設定時間かけた後、カセットはさらに次の槽に送られる。超音波洗浄(又は バリ取り)槽と次の槽の間には前と同じシャッターがあり、超音波時間終了後 開き、カセットはその中を通って次の槽に、導入される。当然、液深は、次の槽と超音波槽は同じでなければならない。(液深というより液面であるが。) -
リンス、シャワー槽
リンス、又はシャワー槽に カセットが導入されると 直ちにシャッターが閉まる。リンス超音波を再度必要とする場合は、このまま2.と同じ工程を繰り返す。シャワー洗浄の場合は、シャッター閉後直ちに液体を貯留槽に回収、排液系統を切り替えてシャワー洗浄を行う。
以下、この考えの繰り返しであるので省略する。
このシステムのひとつの特徴は、洗浄装置の高さが1.2m〜1.5mmと自動にもかかわらず非常に低くなり機械の配置、工場の安全管理に大きく役立つことである。もちろん 洗浄中、バリ取り中、蓋を 透明アクリルなどで作ってあれば、見下ろす形で中の観察も可能である。 -
連続・真空[前処理]超音波洗浄装置、バリ取り装置の意義
これからの超音波洗浄に 真空前処理は欠かせない。その場合の一般洗浄にない真空引きの時間をこのような洗浄槽の側面にシャッターを設けて、真空引きの時間と超音波照射の時間を分けて、高速化の要望にお答えした。同時に超音波洗浄の自動化に伴う上下昇降機構を廃止し、コストを低減、メンテナンスの箇所を大幅に減らし、横移動と真空開閉シャッター、液面の上下限移動管理で 自動化を実現した。自動洗浄装置の高さが半分になった意味は大きい。このシステムは1年以上の試験のあと、今では、バルブボディーのバリ取り洗浄装置のほか、多様な用途で使用されている。
連続真空[前処理]型・超音波鋳砂除去装置
連続真空[前処理]型・超音波鋳砂除去装置
自動車のエンジンのブロック、ヘッド、等のアルミの鋳造部品について外側から強力な超音波を照射して内部の冷却水管などの鋳砂を除去する。洗浄液は水である。高速サーキット用(F1)のエンジンの内部洗浄技術と上述のバルブボディーなどの高速バリ取り技術がドッキング、新しい自動車のエンジン等のアルミダイキャストの鋳砂除去装置が完成した。
鋳物の砂は空気の塊であり、そのままでは 超音波は強力には なりえない。
そのため、どうしても真空に一度して鋳砂の中の空気をなくす必要がる。さらにエンジンブロックなどは中が複雑な迷路状になっており単に浸漬しただけでは、空気が全て出て行くことはない。したがって、どうしても真空[前処理]処理が必要である。原理は他の連続型と同じであるが超音波が異なる。
以下にその超音波について記す。
- 鋳砂除去用超音波発振器、振動子7200W×2=14,400W 8W/cm2
真空処理を経て、エンジンブロック等が1ケもしくは2ケ並べて、超音波洗浄槽に導入される。両側面に 超音波振動子が平行に対抗して並べられている。片面が7200W 4W/cm2 である。振動版間の距離を設計値にあわせ、共振同期回路を組む。周波数は25KHzが 基本の535KHzまでの高周波分を相乗させる同時広域多重波である。
槽の幅、液の深さ、液の流れ、温度分布は キャビティーションが安定的に発生、且つコントロールしやすいように設計される。発振すると 7200W×2台=14,000W 8W/cm2の強力なキャビティーション分布になる。
この超音波は 空気の影響を受けず、エンジンブロックに強力な振動を起こすとともに、内部にも到達、大きな球形のキャビティ(球状星雲型)を作り出し、硬くへばりついた鋳砂、めり込んだ鋳砂を短時間で除去する。
除去時間は2000ccクラス2台分でおおよそ2分である。 - 鋳砂の処理
鋳砂は重く、大部分が槽の底に沈降する。それを超音波振動の力も借りてドレン口から、鋳砂貯留タンクに集められる。一定時間ごとにバルブを閉めて鋳砂貯留タンクを配管からはずし、鋳砂を除去する。形状によっては超音波鋳砂除去槽の次の槽にシャワー槽を設けシャワーで洗浄物の中の比較的低いところに溜まっている鋳砂を洗い流す。
写真は 真空[減圧]鋳砂除去装置の例
エンジンブロック 2台一括処理
連続真空[前処理]型超音波・鋳砂除去装置の今後
現在 アルミダイキャストの精密・鋳砂除去装置は、国内外から引き合い、御発注いただき、納入に追われている。中国むけにも 多数納入し、メンテナンスも 現地業者と 提携して 行っている。
従来の高圧スプレーと異なり見えない部分も充分除去できる。この連続真空[減圧]型、超音波鋳砂除去装置は、当社の強力超音波応用の一つの例ではあるが、これからの超音波開発の新しい方向も示していると考えている。